100万円の水に比べれば水素水なんて大したことは無い

 

あなたは経験したことがあるだろうか?

100万円の水を飲んだ、そんな経験。「水素水は詐欺だ!」と最近話題の水素水なんて目じゃない。コンビニで見かけた時にあまりの値段の高さに思わずびっくりしたが、それでも100万円の水に比べれば大した事はない。

 

話は5歳の頃にまで遡る。家に帰るとキッチンのカウンター部分にどでかい黒い箱が置いてあった。タワー型のデスクトップパソコンのそれみたいな大きさの箱だった。もしモニターに繋いで二次元美少女の壁紙が表示されたらやっぱりタワー型のパソコンだけど、残念ながらパソコンではなかった。黒光りするどでかい箱が気になっている僕に、母は「浄水器っていうの。これでキレイなお水が飲めるのよ」と言った。確かに何か銀色のチューブみたいなものが箱から飛び出しているが、どうやらこの黒光りする箱からはキレイな水が出るらしかった。そうなんだ、と言う僕に対して母は続けざまに

 

「100万円したの」

 

と言った。今でも忘れない。ただでさえ二重まぶたが進化しすぎて三重になったほど母の目は大きかったが、その時ばかりはもう、ただの目玉だった。完全に開いていた。というか開かれていた。ついでに導かれていた。

 

「ほらほら、飲んでみて、美味しいから」

 

と言って浄水器の何やらピコピコと触りだした。その姿は水を出しているというか、浄水器というか、黒光りする巨大な箱っていうか、もうエヴァのMAGIシステムにしか見えなかった。完全に使徒来てる。てか使徒目の前にいる。使徒キテる。

 

するとピロピロピロピロリンと「エリーゼのために」がMAGIから鳴った。水も出た。エリーゼのためではなく僕のために母は水を注いでくれた。僕専用の超力戦隊オーレンジャーのコップに100万円のMAGI水。そして、今すぐ飲めと言わんばかりの目玉が2つ僕を見ていた。僕の何かがパターン青だと言っていた。完全に使徒の到来を告げていた。ああ、ぼくのおかあさんは使徒になっちゃったんだ。水を飲んだが味は分からなかった。覚えていない。が、「美味しいね」と言ったのは覚えている。ここでマズイと言ったら間違いなく何かがヤバイという感覚があった。動物としての本能が完全に試されていた。そして僕は勝利した。

 

その後の記憶が無いのだが、6歳の頃には完全に家から撤去されていた。恐らく、父が、というかエヴァが完全に使徒を撃退したのだと思う。なぜ記憶がないのだろう。僕が寝ている間に戦闘があったか、もしくは今の僕は2人目なのか。真相は謎である。

 

その後、マルチ商法、宗教という武器を持った母こと使徒がたびたび家庭を脅かす出来事があったが、それはまた別の機会に。

 

ちなみに僕は僕で大学の頃に押し売りの人、通称、セールス使徒に負けに負けて浄水器を買った事がある。最終的に負けた、押しの一言は

 

「今度、女の子3人連れてくるんでたこ焼きパーティしましょうよ!いやマジで」

 

だった。完全に負けた。いいっすね!って言って買った。その後、法学部生の知識をフルに使ってクーリングオフをした。後にも先にも法律を学んでよかった経験はこれだけだろう。