ナメられのススメ

僕は今、人生で一番ナメられている時期を過ごしている。

 

まず兄弟からだ。幼い頃の僕は長男として権力をフル活用し、パシりはもちろん、買い物袋やら、重たい荷物持ちも全て妹と弟に任せていた。僕は家族内で家のカギ開けという楽でありながら重要なポジションについていた。反論しようものなら口からでまかせ、へ理屈でねじ伏せる。これが僕の帝王学だった。それが今や「荷物も持てないやつ」の座にまで降格した。黙っている兄弟に向かって僕が兄の尊さを説くと、コイツには何を言っても無駄だ、という表情を見せる。ああ、兄はもういない。長男というステータスなど一時のものだった。

 

次に友人たちだ。これについては昔からそうなので特に書く事はない。口からでまかせ、へ理屈でねじ伏せようとすると皆、笑顔で頷いてくれる。「口からでまかせ、へ理屈でねじ伏せようとすると笑顔になるスイッチ」でもあるのだろうか。

 

極めつけは近所の女子高生で、僕の事を「君付け」で呼びながらタメ口で話してニヤニヤしてくる。高校生までの僕ならば間違いなくメリケンサックを両拳に身に付け、丁寧に舐め回し、鉄と昨日のケチャップの味を感じながら白目を剥いて相手にドロップキックをかましにいっていたかもしれない。が、悲しい事に24歳にもなると女子高生にタメ口を利かれる事が嫌ではなくなってきたのだ。「あ、まだ俺って若い感じのお兄さんでいけるんだ、対等なんだ!」とすら思っている。ああもう。なんかで見た男尊女卑の思想に感化されて、サークルの集まりでそれを披露して皆の顔がどん曇りになってサークル退会を余儀なくされた大学1年生の頃の僕の攻撃性はとうに過去のものとなっていた。

 

あなたのそういうとこが良いじゃん、と言ってくれた人は真夜中に50連続スタンプを僕にお見舞いし、やめてくださいという僕の悲痛な抗議のメッセージを既読スルーしている。もう半年になる。

 

相も変わらずナメられている。でも1つだけ変わった事があった。真夜中に送られてくる大量のスタンプが僕が作ったものになっていた事だ。みたいな事が言えたらなんか良い感じだがそんな事は無く、「いいから早く帰省してきて」というメッセージが一方的に送られてくるだけだ。はい、と送り帰省の準備をする。なんだかそんな人生も悪くないと思った。